加賀百万石の魅力とは?その歴史・伝統・文化に触れる
きっと見つかるあなたが好きな石川のツボ
石川県には、藩政時代から積み上げてきた伝統芸能・伝統工芸が今も現役で魅力を放っています。この土地に育まれた美意識は衣・食・住、文化芸術の隅々にまで行き渡り、訪れる人それぞれの感性を刺激します。町並みも伝統工芸も信仰も、どこを見てもきらびやか、何を見ても本物。そんな贅沢な体験の中、あなたはどんな石川にはまるでしょうか?
(写真提供:金沢市、白山市観光連盟、こまつ観光物産ネットワーク)
前田家お膝元の城下町を歩く
街の中心で加賀百万石の歴史を学ぶ
藩政時代、歴代の前田家藩主は豊富な財力と、文化的な土壌を最大限に活用し、加賀藩をさらに豊かに、さらに文化水準を高めることに労を惜しみませんでした。その成果は、少し街を歩けばすぐに目に入ってくるでしょう。前田家のお膝元で、城下町の風情に包まれながら、まずは歩いてみませんか?
上・中級武士の暮らしに思い馳せながら長町武家屋敷跡散策
飲食店が軒を連ねるせせらぎ通りから一本路地を入ると、そこはもう江戸時代。両側に土塀と長屋門が続く石畳の界隈は、かつて上級・中級武士が屋敷を構えていた地域。再現した武家屋敷群には伝統工芸の店や雑貨店、飲食店なども入っていますが、中でも当時の武士の暮らしぶりを伝える展示館は必見です。加賀藩の奉行職を歴任してきた野村家屋敷跡は、総檜の格天井や山水画が描かれた襖、そしてミシュラン二つ星の評価を受けた見事な庭園を公開しています。中級武士の高田家跡では、このクラスの武家の間取りを忠実に再現し、暮らしぶりを垣間見ることができます。
玉泉院丸庭園から金沢城公園
1583年、前田利家公の金沢城入城以来、何度も火災に見舞われ、そのたびに再建が繰り返されてきた金沢城。明治以降も陸軍第九師団の拠点、金沢大学のキャンパスとして利用されるなど、時代によって姿を変えてきました。現在は金沢城公園として整備され、今も一部で発掘・復元が進められています。その中でもっとも新しく復元整備されたのが、歴代藩主の内庭として使われ、明治以降には廃絶されていた玉泉院丸庭園。三十間長屋との高低差を生かした石垣の造形は見事です。休憩所・玉泉庵ではお茶をいただきながら庭園全景を見渡すことができます。
文化財指定庭園・特別名勝 兼六園
言わずとしれた日本三大名園のひとつ、江戸時代を代表する大名庭園の兼六園。3万4千600坪という広大な敷地に、曲水でつないだ池と築山を配した池泉廻遊式の庭園です。前田家の藩主が代々にわたり手を加え、180年の歳月をかけて完成させた兼六園は、今も県民の宝として大切に手入れされ、世界中から訪れる人々を魅了します。徽軫灯籠や唐崎松、蓬莱島、日本最古の噴水など、有名な見どころも、毎日5回行われるガイドツアーで解説を聞きながら巡ると、一つひとつの意味がわかり、いっそう感動が深まります。
成巽閣で奥方たちが愛でた濃やかな調度品を鑑賞
成巽閣は、もともとは十二代藩主斉泰公が奥方のために兼六園の敷地内に立てた奥方御殿でした。十三代藩主齊泰公は、晩年を過ごす母のため、さらに手を入れて優しく雅な空間に設え上げました。加賀藩の技術の粋を集め、舶来の品々を惜しげもなく買付け、女性が好む細部にまで洗練された邸宅が出来上がったのです。加賀藩の奥方たちの華やかな暮らしぶりは、毎年定例で開催される前田家伝来の雛人形・雛道具展や、折々の衣裳・調度展など、特別展で偲ぶことができます。
歴史と文化を感じながら本多の森を散策
石川県立美術館の裏手から本多の森を抜けて鈴木大拙館へ続く「美術の小径」「緑の小径」は、金沢の地形を足で実感しながら、博物館・美術館と庭園を巡る格好の散歩道になっています。藩政時代に整備された辰巳用水の分岐が水音を立てて流れ落ちる急な階段坂を下りると、金沢市立中村記念館の敷地に到着。さらに雑木林を抜ける小径を通り、鈴木大拙館に向かいます。そこから連絡口でつながっているのが、兼六園のお手本になったという「松風閣庭園」。森とせせらぎを通り、地形に驚き、茶の湯と庭園を味わい、哲学に到達する、金沢の真髄が詰まったミニトリップが楽しめるコースです。
芸能と工芸の伝統を体験
やってみると楽しさ倍増!
それぞれに長い歴史と深い精神を宿す石川の伝統工芸・伝統芸能。観賞するだけじゃ物足りないという人のために、それらを気軽に楽しめる、体験プログラムがたくさん用意されています。自分で体験してみれば、次に作品を見る時には、感じ方も変わってくるかもしれません。
空から謡が振ってくる、加賀宝生流のお膝元で能楽を体験
江戸の昔から加賀藩では「空から謡が降ってくる」と言われるほど能楽が盛んでした。藩が宝生流を手厚く保護し、武家はもちろん領民にも奨励したため、町の職人や商人も熱心に謡を習うようになりました。明治維新で加賀藩の保護は失っても、その土壌は守られ、今も伝統は受け継がれています。金沢能楽美術館では、毎週火曜日に現役能楽師による楽器体験を開催(予約不要)。もっと気軽に能の世界を体験してみたい人は、能楽美術館1階で、本物の能面と装束の着装体験をすることができます。
加賀友禅を見て、描いて、身にまとう
染め着物の最高峰と言われる加賀友禅。花鳥風月など伝統的なモチーフを、優美で写実的な図柄で表現する、石川を代表する伝統工芸のひとつです。長い修行と鍛錬で習得する技術ですが、兼六園近くの小将町にある「加賀友禅会館」では、簡単な手描きや型染めで友禅染を体験することができます。同会館では、加賀友禅の着装体験も受け付けています(当日予約OK)。兼六園を加賀友禅姿で散策することもできます。同様の彩色体験・着装体験は、「長町友禅館」でも行っています。武家屋敷界隈を着物で歩きたい人はこちらに。
お茶屋遊びを手軽に体験
金沢には、ひがし、にし、主計町と三つの茶屋街があり、どこも観光客で賑わっています。でも、お座敷で芸妓さんの芸を楽しむとなると、少し敷居が高くなります。もっと気軽にお茶屋遊びを体験してみたい。そんな要望に応えて、6月と9~3月までの土曜日に「金沢芸妓のほんものの芸にふれる旅」を開催しています。芸妓連による唄、躍りの観賞と、お座敷太鼓やお座敷遊びが体験できます。また、気軽に雰囲気を楽しみたい方は、石川県立音楽堂で開催している「金沢芸妓の舞」(例年10~3月)がおすすめです。
県内の伝統工芸36業種が一同に。石川県立伝統産業工芸館
ここに来れば石川県の風土が生み出し、師から弟子、親から子へと伝えられてきた技の伝承36業種と一気に出会えます。第1展示室には着物、バッグ、クッションなど衣料に関する工芸品、食器から茶道具まで食にまつわる工芸品、表具、鋤、桑、竿、火鉢など暮らしにまつわる工芸品が展示されています。第2展示室には、冠婚葬祭などの「祈」、玩具や釣りなどの「遊」、楽器などの「音」、花火、提灯など「祭」にそれぞれ関する工芸品が集められています。すべて合わせて36業種。土日祝日には、これらの分野から一業種の伝統工芸師が来館し、実演や体験、ワークショップなどを行っています。
お茶どころ加賀を味わう
五感で楽しむ茶の湯の文化
石川県は茶道をたしなむ人口が全国でもトップクラスと言われています。歴史的にも、千利休より直々に佗茶を学んだ前田利家公の時代から茶の湯とのつながりは深く、五代藩主綱紀公の代には、千家三代の四男仙叟宗室(せんそうそうしつ)を金沢へ迎え指南を乞いましたました。その時にお茶に使う道具を作る工芸師もともに金沢に下り、以来加賀の伝統工芸として独自の発展を遂げてきました。こうして歴史に根ざした茶の湯の文化は、今も石川の地にしっかり根付いています。
お庭を眺めながら呈茶・茶の湯体験
金沢にはいたるところでお抹茶を一服いただける場があります。観光地の中でも、兼六園の時雨亭、玉泉堰堤の玉泉庵、寺島蔵人邸、武家屋敷跡の野村家、ひがし茶屋街の「志摩」の寒村庵など、庭園や建物の意匠を眺めながら、気軽にお茶とお菓子を楽しめます。もう少し茶の湯を深く知りたい人には、東山の町家「町家塾」がおすすめです。お茶を楽しみながら、表千家の作法やお茶室での振る舞いの基本を学べます。
大樋美術館
飴色の釉薬が独特の味わいを生み出す大樋焼は、仙叟宗室が前田家に招かれ京から加賀に赴くとき、楽焼の技術を見込んで帯同した初代大樋長左衞門が始祖。宗室が後に京に戻り裏千家を起こした後も、長左衞門は加賀に残り、以後350年以上にわたり加賀の茶の湯とともに歩んできました。大樋美術館では、大樋焼の歴史と各時代の作品、関わりの深い文化人の作品や資料などを展示してあり、茶道具から石川の茶の湯の歴史を学べます。樹齢500年の赤松を臨む茶室で、大樋焼の茶碗でお茶をいただくこともできます。
香ばしい加賀棒茶を一服
石川県で普段飲まれているお茶といえばほうじ茶。その中で上級品は、大きさ・形の揃った一番茶の茎だけを、旨味を逃さないようにじっくり時間をかけて浅く煎じたもの。熱湯を注ぐと香りが立ち上り、淡い色のお茶を口に含むと雑味のないすっきりした飲み口が広がります。昭和天皇が全国植樹祭でご来澤の折、献上したことですっかり有名になりました。今では石川土産の定番にまでなりましたが、もし機会があれば、一度は専門の茶店で煎れてもらった加賀棒茶を試してみることをおすすめします。煎れ方次第でこんなにおいしくなるの?という驚きと感動を経験してみてください。
石川県観光物産館で、お茶菓子作りを体験しよう!
京都・松江と並んで日本三大菓子処と言われる金沢。お茶どころだけに、どの菓子店も高いレベルで切磋琢磨して味を競い合っている土地柄です。そんな金沢ならではの体験プログラム、上生菓子作りはいかがでしょう。石川県観光物産館では、1月から11月までの土日祝日、1日6回和菓子作り体験を開催しています(要予約)。金沢の老舗和菓子店の職人が、季節のお菓子を丁寧に教えてくれます。自分で作った上生菓子3個に職人が作ったお土産1個。持ち帰るのもいいですが、喫茶コーナーでお抹茶を注文して出来たてをいただくのもおすすめです。
加賀の紅茶と能登の紅茶
お茶というとお抹茶を思い浮かべますが、実は石川県は日本産の紅茶=和紅茶の産地でもあります。加賀市の打越で栽培される「輝(かがやき)」、七尾市の能登島で栽培される「煌(きらめき)」という二つのブランド。前田家十八代当主前田利祐氏によって命名されました。昔から加賀藩領内で生産したお茶には、藩主が愛称をつける風習にちなんだものです。味は癖が少なく甘い香りと清々しい後味が特徴。どちらもまだ発売して10年に満たない新しいお茶ですが、少しずつ生産量を伸ばし、知名度と愛好者を広げているところです。
さまざまな心願に霊験あらたか、加賀の神様・仏様
何度も訪れ参拝したい、石川の神社・寺院
信心深い人も、神様仏様なんか信じないという人も、忙しい日々の暮らしに疲れたら、ちょっとした心の洗濯はいかがでしょう。白山信仰から一向一揆の歴史、前田家ゆかりの社寺仏閣まで、古くから、石川県内には信仰の拠点が数多く点在していました。その中にはきっとあなたと「気の合う」神様がいるはず。人々の信仰が築いてきた歴史や、自然の景観や、細部にまで見事な職人技など、そこへ行けば心引かれる何かと出会えるかもしれません。
まちなかで異彩を放つ、前田家ゆかりの尾山神社
前田利家公とお松の方を祀った神社。ステンドグラスが特徴的な神門は、国の重要文化財に指定されています。明治初期に作られたこの門は、和漢洋三要素折衷の三層式で、最上階は五色の色ガラスで四面を飾られた不思議な造り。文明開化の世相を反映して当時数多く作られた擬洋風建築の一つです。夕暮れ時から夜にかけて神門がライトアップされ、ステンドグラスが光を受けて夜空に幻想的なシルエットが浮かび上がります。冬期にはこれに加えて参道に金の屏風が立ち並び、一層幻想的な景色を作ります。きらびやかな神門に目が行きがちですが、実は勝負運の神様として、周辺のオフィス街で働くビジネスマンにも人気スポットなのです。
金沢三つの寺院群・・・寺町(静音の小径)・小立野(いし曳のみち)・卯辰山(こころの道)
金沢市内には三つの寺院群があります。三代藩主前田利常の時代、一向一揆対策や城下に点在している寺の管理のため、また金沢城のまもりを固めるために三つの寺院群に分けるように再配置し、移転させたのです。金沢城から見て鬼門を守るために寺院を配した卯辰山、万が一の敵襲に備えて特に厚い守りを託した西部の寺町、利常の正妻・珠姫を祀る天徳院はじめ前田家ゆかりの寺院が集まる小立野と、それぞれに特徴のある寺院群、テーマを決めて巡ってみてはいかがでしょう。
忍者はいない、忍者寺(妙立寺)
三代藩主利常公の時代になっても、加賀藩はいつ幕府の侵攻があるかわからないという危機感は捨てませんでした。そして福井方面から幕府軍勢が攻めてきた時に備えて、犀川を自然の壕に見立て、川の外岸に寺院を集めて金沢城を守る城塞の役割を課しました。その中でも妙立寺は、緊急時には出城として機能するように、多くの仕掛けを作ったのです。まるで秘密基地のような複雑怪奇な内部、落とし穴やのぞき窓、どんでん返しなど、敵を欺く仕組み満載で見て回るだけでワクワクしてきます(要予約)。
勧進帳の舞台、安宅住吉神社
歌舞伎十八番のひとつ「安宅の関」は、800年前の源平時代、兄頼朝に追われる源義経と、主人をかばい守る家来の弁慶、2人の正体を知りながら主従愛に心打たれて逃がす関守・富樫の交錯する心理を描いた物語。舞台となった安宅住吉神社は、国内唯一「難関突破の御神徳」があると、多くの人を引き寄せています。「もう無理!」「絶体絶命・・・」という状況に陥ったとき、ぜひとも参拝してみてください。もしかしたら何かが変わるかも。そうでないときでも、巫女さんによる勧進帳や神社の宝物・縁起についてのガイドは一見の価値ありです。
白山比咩神社奥宮から、御前峰山頂でご来光を拝む
白山比咩神社には、鶴来にある白山本宮と、白山御前峰山頂にある奥宮があります。本宮境内に白山奥宮遙拝所があり、ここを参拝することで奥宮参りも叶いますが、一度は御前峰山頂からご来光を拝み、実際に奥宮を詣でてみたいもの。参拝という名の登山であることは覚悟して、天候を確かめ、装備もしっかり整えて向かってください。別当出合まで車かバスで行き、そこから室堂を目指すのが一般的なコース。室堂平のビジターセンターで一泊し、翌朝日の出前に山頂目指して出発です。40分ほどの登山で到着。ご来光が拝めたら、神職さんの合図で万歳三唱。神々しいその瞬間に、ここまでの疲れも吹き飛ぶことでしょう。奥宮で感謝を捧げて下山します。
産業振興の歴史を辿るプチトリップ
石川ブランドを育んだ、産業振興の歴史を見に行く
前田家は、藩の政策として代々にわたって工芸を保護してきました。藩営の工房「御細工所」では紙細工、針細工、象嵌細工など、24にもわたる職種の細工人を抱え、江戸や京の最新技術を取り入れて高水準の工芸品を生み出してきました。長い歴史の中で培ったものづくりの遺伝子は、石川県の底力となっています。今も現役で地域を支える地場産業。歴史とともに役割を終えた産業。古い町並みの中に、小さな展示館の中に、その産業が歩んできた歴史が語られています。
大野の醤油と味噌蔵
海沿いの町・大野地区は、藩政期から醤油造りが盛んで、全国にもその名が知られていました。北前船の寄港地でもあり、古い町並みの中にも往時の繁栄ぶりがうかがえます。現在も醤油・味噌蔵が点在し、町を歩くと香ばしい香りが漂ってきます。醤油メーカー直営のカフェやレストランもあって、散歩の合間に立ち寄る場所に迷います。金沢を代表する醤油メーカー「ヤマト醤油味噌」が運営する「ヤマト麹パーク」では、ガイドツアーの案内で醤油味噌について知ることができます。
牛首紬のふるさと白山白峰
歴史を遡れば平家の落ち武者伝説にまで行き着く、白山市白峰地区で800年以上前から織られている牛首紬。大島、結城と並んで日本三大紬に数えられる高級織物です。一つの繭に二頭の蚕が入った「玉繭」から糸を引いて織る、独特の節のある風合いが愛好者に人気です。「織りの資料館 白山工房」では、牛首紬の歴史に関する展示とともに、糸引きから機織りまで、牛首紬の作業工程の見学プログラムが整備されています。また、織機を使ってコースターを作る、機織り体験もできます。
石の文化を偲ぶ小松市滝ヶ原の石切場
霊峰白山をいただく小松市は、古墳時代から良質な宝石や鉱物の産地でした。藩政時代には金平金山が発見され、加賀藩の財政を支えてきました。尾小屋鉱山、遊泉寺銅山は明治大正に本格的に生産を伸ばし、近代石川発展の土台を築きました。こうした小松市の石文化は2016年、文化庁の「日本資産」に認定されました。また、豊富な地下資源を活用してきた地域の歴史を、「珠玉と石の文化」として発信するプロジェクトが、2017年にスタートしました。小松の石文化は、今も採掘が行われている「滝ヶ原の石切場」をはじめ、石切場やアーチ型石橋群を見学する「石の里ガイドコース」で気軽に一望することができます。
北前船で栄えた輪島市黒島を歩く
廻船問屋が集まる船主集落として栄えた輪島市門前町黒島地区は、江戸時代には幕府の直轄地になり手厚い保護を受けながら、莫大な富を築き上げました。このエリアは重厚な黒瓦、堅牢な下見板張りの壁に格子戸という伝統的な造りの家々が続き、当時の栄華を伝える美しい町並みを残しています。2009年には重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。「角海家」は、この地区最大規模を誇った廻船問屋の住宅跡。豪華な調度品や輪島塗の器など、展示品からも豪勢な暮らしぶりがうかがえます。
中身もいいけど建物も、心して味わいたい石川の美術館・博物館
収蔵作品に負けない、巨匠たちの渾身の建築物
世界的に活躍する活躍する建築家たちは、石川県でもたくさんいい仕事を残しています。役所、銀行、商業ビル、学校、観光施設、町家のリノベーション・・・。そんな中でも、注目したいのが美術館・博物館の建築。収蔵される国宝や重要文化財、芸術作品、栄誉ある偉人の価値を考えれば、それを置く器も収蔵品のコンセプトに見合った素晴らしいものを期待されます。巨匠たちが収蔵品やミュージアムのテーマにどう向き合い、挑んだか。そんなことを考えながら、建物を観賞するのも楽しい見方です。
金沢21世紀美術館 ・・・妹島和世/西沢立衛(SANNA)設計
「誰もがいつでも立ち寄ることができ、さまざまな出会いや体験が可能となる公園のような美術館」というのが21世紀美術館の基本コンセプト。三方に開かれた入り口を配し、正面も裏もない円形の建物は、街と一体になってすべての人を招き入れます。壁面は主にガラスを使い、「透明で明るく開放的」な建築を求め、さらに内と外とで互いに存在を感じ合う「出会い」の感覚も生み出しています。国際建築展金獅子賞、ブリツカー賞をはじめ、数々の世界的な賞を受賞してきた妹島和世と西沢立衛の建築家ユニットSANNAが設計を手がけました。
中谷宇吉郞雪の科学館・・・磯崎新 設計
世界で初めて人工雪を作ることに成功し、雪や氷の結晶について優れた研究を残した中谷宇吉郞博士の業績を伝えるこの博物館は、磯崎新氏の設計で1994年に開館されました。雪の結晶を模した六角形の塔が印象的な建物です。中庭には、博士の最後の研究地であったグリーンランドから運んだ岩石が敷き詰められ、ここに人口の霧が流れるようになっています。柴山潟の向こうに雪をかぶった白山を望むロケーションは、この地で生まれ育った博士が幼い頃に目にしていた風景を想像させ、偉大な科学者の原点に近づいたような思いを抱かせます。
石川県能登島ガラス美術館・・・毛綱毅曠(もづな きこう)設計
不時着した宇宙船のようにも見える、建物自体がオブジェのような外観。北海道出身の建築家、故・毛綱毅曠氏による不思議な建物は、実は風水の四神思想を取り入れたものだと言います。四つに分かれている棟は、東に青龍、西には白虎、南に朱雀、北には玄武と、それぞれの神様をイメージしたデザインを施し配置されています。宇宙や自然との共生を訴える毛綱氏の思想が、能登島の自然の中で息づいています。建物内部は、常に変化する雲をモチーフにしたオブジェや装飾がそこここに施されています。作品を効果的に見せる細部の工夫に、自由奔放な中にある建築家の濃やかさをうかがわせます。
石川県西田幾多郎記念哲学館・・・安藤忠雄 設計
「西田哲学」を生み出した哲学者・西田幾多郎の功績を伝える西田幾多郎記念哲学館は、かほく市の高台に立つ、コンクリート打ちっぱなし・ガラス張りのモダンな建物。安藤忠雄氏の設計によるこの建物は「思索と対話」がテーマです。直線の壁に囲まれた「空の庭」、円形の窓から光が差し込む瞑想空間「ホワイエ」など、自ら考える仕組みがしつらえてあります。休館日と悪天候時以外は通年、日没から21時半まで、東京スカイツリーのイルミネーションを手がけた照明デザイナー戸恒浩人氏設計監修による「哲学の杜」ライトアップも行われています。
鈴木大拙館・・・谷口吉生 設計
金沢出身の仏教哲学者・鈴木大拙の歩んだ軌跡と思想に触れ、来館者自身にも思索を深めてもらいたい。そのために鈴木大拙館は、建物も重要な役割を担っています。本多の森の丘陵を背にしたモダンな石造りの建物は、「玄関棟」「展示棟」「思索空間棟」の三棟が回廊でつながれ、それぞれに「玄関の庭」「露地の庭」「水鏡の庭」が配置されています。これらを回遊することで大拙と禅について知り、学び、考えるように意図された設計です。設計者の谷口吉生氏は、京都国立博物館平成知新館、ニューヨーク近代美術館新館などを設計した世界的な建築家。石川県ではここの他に金沢市立玉川図書館や片山津温泉町湯を手がけています。
新しいミュージアムが相次ぎオープン
2019年、金沢出身で昭和の日本を代表する大建築家、故・谷口吉郎の生家跡に「建築博物館」が開館します。設計は息子の谷口吉生氏。谷口吉郎の遺品を中心に、著名な建築家の資料や貴重な建築模型なども展示されます。2020年には、「東京国立近代美術館工芸館」が、兼六園に隣接する本多の森にオープンします。予定地の左右には、石川県立歴史博物館と石川県立美術館が並び、アート探索がますます充実することでしょう。建物は、現在出羽町にある旧第9師団司令部庁舎と旧金沢偕行社を移転復元して利用します。重要文化財に指定されているレンガ造りの県立歴史博物館の隣に、明治期の重厚な建造物が並ぶ風景も楽しみです。