石川の伝統に触れる!加賀百万石回遊ルート 伝統スポット特集
加賀百万石回遊ルート内の文化施設を、お得に巡ることができる「SAMURAI PASSPORT(サムライパスポート)」
SAMURAI PASSPORTの対象施設となっている「金沢能楽美術館」は、金沢市無形文化財に指定されている加賀宝生に伝わる貴重な能面や能装束を展示する美術館です。そんな金沢能楽美術館の学芸員さんに聞いた、施設の魅力をご紹介!
また、学芸員さんに「伝統」をテーマにおすすめスポットを聞き、リレー方式でおすすめスポットや見どころをご紹介します♪
「金沢能楽美術館」の見どころをご紹介!
『金沢能楽美術館』は、現在の『石川県立能楽堂』が移転する前、かつての『金沢能樂堂』があった広坂にあります。金沢の能楽について学芸員の山内さんんが教えてくださいました。
▲『金沢能楽美術館』の学芸員・山内さん。
「天下を統一した豊臣秀吉は自分の戦功を新作能にするほど能好きでした。よって加賀藩祖・前田利家をはじめとする武将らも、その趣味に付き合えるよう能や狂言を嗜みました。現代のビジネスマンが、上司や取引先の偉い方々と付き合いでゴルフをする感じですね」
そもそも「能」は約600年の歴史を持つ歌舞劇。神様や幽霊、精霊など、人以外を主人公とする演目が多いのが特徴です。元々は神事として神に奉納する舞であったため、宗教と深いつながりがあるのですが、室町時代に観阿弥・世阿弥によって現代の形へと大成されたそう。
「能は数百年かけて洗練を重ねた型を、いかに正確に演じるかが重要とされます。一切の無駄を省いた型は、骨、あるいは想いの結晶のようなもの。舞台は能を観ている人が自身の感性や知識、経験からイメージを膨らませることで完成します。だから時代や環境の違いを超えて人々に寄り添える。その普遍性が能の魅力だと思います」と山内さん
▲2階には様々な時代の能面が展示されている。
舞だけでなく、現在約70~80種類ある能面も型通りに作られるそうで、1階には能面が作られる工程が道具と共に紹介されています。
前田家から手厚く保護された金沢の能楽は「加賀宝生」として独自の発展を遂げました。2階には絢爛豪華な能装束や希少な能面が展示されています。
外様大名で、百万石と財力もあった前田家は、江戸幕府から目を付けられており、何度も取り潰しの危機があったそう。江戸に弓引く気がないことを示すため、前田家は文化的なものに大変お金をかけました。その一つが能だったようです。
加賀藩には①専業の御手役者②兼業の町役者③兼芸の御細工人(おさいくにん)の三種類の能役者がいました。特に③は独自の制度で、工芸職人に能楽を嗜ませて、藩主の稽古相手としていました。また②③のおかげで「空から謡が降ってくる』といわれるほど能の文化が庶民に浸透したといえます。ひと昔前までは、結婚式に高砂の謡が定番でした。
▲能面や能装束は着付けを手伝ってもらえる。
なお、1階奥には体験用の能装束と能面が展示されています。現在はコロナウィルス感染拡大防止のため中止しておりますが、通常時は着装体験や記念撮影なども可能ですので、金沢旅行の思い出にぜひ体験してみてくださいね。
石川県の漆器と言えば輪島や山中と並んで金沢も有名です。金沢市役所すぐ近くの『能作』では金沢漆器を数多く扱っています。
金沢漆器を鑑賞・体験できる「能作」へ
▲加賀蒔絵、輪島塗、山中漆器などを販売
伝統を受け継ぐ同店の社長・岡さんにお話を伺いました。
「同じ漆芸品でも、生活工芸として使用に耐え得る丈夫な作りの輪島塗や山中漆器と比べ、金沢漆器は繊細で薄造りなのが特徴です。加賀藩3代藩主の前田利常が、京都から蒔絵の巨匠・五十嵐道甫を招いたことに始まり、貴族文化の優美さに武家文化が加わった独特の漆工芸として発展。お殿様や大名方への調度品として珍重されました。ですから、現代でも棗や硯箱などの高級工芸品として愛用されています」
2階には繊細な加賀蒔絵が施された金沢漆器や、塗りの技の奥深さを感じられる輪島塗、木地のこだわりに満ちた山中漆器など、石川県内の漆作家の逸品がずらり。ちなみに現在は、金沢漆器の木地師と塗り師はお一人ずつしかいらっしゃらないそう。
同店の3階には名工が手掛けた大変貴重な金沢漆器が展示・販売されています。中には、3代藩主利常の正室・珠姫の雛飾りを再現したという逸品も。お値段はなんと300万円!
「こちらの雛飾りは成巽閣に現存する実物を現代の職人が忠実に再現しました。細部までしっかりと作り込まれており、この3品を制作するのに約3年を要しました。小ぶりな作品ながら金銀の蒔絵や螺鈿が施された精巧かつ絢爛豪華な作りで、加賀百万石の文化の奥深さを感じられる逸品です」と岡さん。
▲「置き目」と呼ばれる図が書かれている。
また、3階ではお盆に漆を塗って金銀の粉をまく蒔絵体験(前日までに予約・3,000円)も可能。
さらに、4階には知る人ぞ知る人気甘味処『漆の実』もあり、おすすめです。四季折々の美しい景観を望む店内も魅力ですが、本来は予約しないと購入できない金沢・東山のお茶菓子専門店『吉はし』の上生菓子がいただける、金沢マダムたちの隠れ家的な和カフェです。
▲漆器の技法を用いたカラフルなカップ
基本情報
甘味処「漆の実」(4階)
営業時間/11:00~17:30
席/18席
ギャラリーも併設しており、企画展が行われるなど活気のある老舗店となっています。
伝統工芸 九谷焼の魅力を堪能!「諸江屋」へ
石川県が誇る伝統工芸の九谷焼。青(緑)・黄・赤・紫・紺青という“九谷五彩”を使った大変鮮やかな磁器として知られ、国内外から高い評価を受けています。
文久2年(1862)創業、片町に店を構える専門店『諸江屋』の社長・諸江さんに九谷焼の魅力を伺いました。
1661年、江戸時代に現在の加賀市大聖寺で陶石が発見され、前田家3代目藩主・利常が磁器の生産を命じたのが九谷焼のはじまり。五彩を使って描かれた大胆な構図とのびのびとした線描きが特徴で、当時の作品は「古九谷」と呼ばれています。
九谷焼は時代と共に様々な技法が編み出されました。例えば、人物を主に五彩を用いて描き込んだ「木米(もくべい)」や、青(緑)・黄・紫・紺青の四彩で小紋を地紋様風にして、器物全面を絵具で塗り埋めた重厚な作風の「吉田屋」、赤で大変詳細に人物を描き、小紋等で全体を埋めつくした赤絵細密画の「飯田屋」など、時代ごとに全く異なる魅力があります。
同店の2階には初代徳田八十吉や北出塔次郎といった名匠の他、 宮内庁御用達の山本長左の食器などが展示されています。また「ギャラリー片町」も併設しており、色々な作家の企画展を開催しています。
「現代の九谷焼作家は、豊かな技法と自由な発想をもとに、大変ユニークな作品を生み出し、新たな可能性を発信されています。伝統を次の世代へと受け継ぐためにも、若手作家の展示会などを定期的に行い、より多くの方へその魅力をお伝えしたいと思っています」と語る諸江さん。
▲若手作家の作品発表の場としても用いられる。
1階にはお土産や普段使いに最適な商品がずらり。
また、店の奥には有名新人を問わず現代九谷焼作家の作品が展示販売されており、バリエーションの豊かさに圧倒されます。将来名工になりそうな若手作家の作品をチェックしてみては。