加賀毛針や和菓子など、加賀百万石の伝統文化を支える金沢の老舗探訪
ほっと石川旅ねっと体験ライターの沖﨑です。
姪との体験旅。今回は、400年以上前の江戸時代から息づく老舗の商家と博物館を巡ります。
金沢の伝統工芸は、戦国時代の乱世を生き抜いた加賀藩祖前田利家がその礎を築いたともいわれ、現代でも金沢には魅力ある工芸品があふれています。
繊細で華やかな8ミリの工芸品「加賀毛針」
加賀藩では、藩政時代に武士の修練として鮎釣りが奨励され、毛針がたくさん作られました。加賀毛針は、もともとは縫い針を利用したため、返しがないのが特徴です。縫い針を生業として天正3年(1575)年に創業した『目細八郎兵衛商店』(めぼそはちろべえしょうてん)は、明治23年(1890)の「第3回内国勧業博覧会」に加賀毛針を出品。この頃より全国に加賀毛針の名が知られるようになったそうで、今日までずっと加賀毛針と縫い針を作り続けてきた老舗です。
店内には繊細さと華やかさを持ち合わせた、髪飾りやブローチ、ピアス、ブレスレットなどがずらり。もちろん、鮎用の加賀毛針をはじめ、縫い針、さらには可愛い針山や裁縫セットなども並び、見るだけでも楽しい店内です。
加賀毛針の技を生かしたふわふわのアクセサリーづくり
アクセサリーづくりを教えてくれるのは、20代目のご当主と、19代目の目細さんです。お二人ともとても物腰が柔らかく、私たちを静かに迎え入れてくれました。
まずはパンフレットを見ながらの説明があり、そのあと、ビデオで加賀毛針の歴史などを学びます。
完成見本を参考に、作りたいブローチの配色やデザインを考え、フェザーを選びます。が、数十種類もあるフェザーの中から選ぶのはかなり迷います。
鳥の種類もホロホロドリやギンケイチョウ、クジャク、カワセミ、ガチョウ、カモ、名古屋コーチンなど多種多様。それらを赤や黄、青などに着色したものもあり、目移りします。
選んだらまずはシミュレーション、素材同士を組み合わせてみます。接着剤を使った後では、はがすのが難しいため、よーくイメージをふくらませて。
羽根が長いと思ったらハサミで短く切って整えます。
細かい作業なので、ピンセットは必需品。接着剤は、少量の2種類の液を混ぜ合わせることで粘着力が強くなるものを使用し、つま楊枝の先端で混合しながら付けます。
まずは下の位置に来る羽毛の根元に接着剤を付け、あらかじめ用意されている本体部分に差し込んでいきます。
「あっ、失敗!」となっても大丈夫。目細さんがちゃんと修復してくれますので、思いっきり楽しめます。
繊細な作業になるので、会話は少なくなりますね。
ここにどんな色を入れたらいいのかな、と考えていたら、目細さんが助け船を出してくれました。
「なかなかいいセンス持っとるよ、もうちょっと、ここにこうやね」と濃いブルーの羽毛を入れてくれ、さらに最後に全体のバランスを見て整えてくださいました!
アクセサリー(ブローチづくりのみ)体験は、1度にできる人数は5人まで。所要時間は60~90分程度。体験希望者は、あらかじめ電話でご予約を。
色とりどりのフェザーアクセサリーが並ぶ店内を見学。自分使いもいいし、おみやげにもぴったりですね。姪は、ちょうど縫い針が古くなっていたということで、目細さんに相談して縫い針を買い求めていました。
基本情報
目細八郎兵衛商店(めぼそはちろうべえしょうてん)
【住所】石川県金沢市安江町11-35
【電話番号】076-231-6371
【営業時間】9:30~17:30
【定休日】火曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
【駐車場】3台
《アクセサリー製作体験》
【体験料金】2,200円(ブローチ)※体験は要予約
【所要時間】約60分〜90分 ※1度に体験できる人数は5人まで。
加賀百万石の城下町、金沢の町民文化をお勉強
江戸時代、金沢は百万石の城下町として栄えており、江戸や京都、大阪に続く大都市だったといいます。中心部の街道沿いにはさまざまな業種の大店(おおだな)が軒を連ね、薬屋を営んでいた商家・中屋薬舗もそのひとつだったそう。
この建物はそんな中屋薬舗を移築して『金沢市老舗記念館』としたものです。中屋家は天正7年(1579)に創業し、加賀藩5代藩主の御殿薬の処方もしていた由緒ある薬舗。建物は大正8年(1919)に改装されたもので、大きな木材をふんだんに使用しており老舗の風格たっぷりです。
囲炉裏を備えたおえの間は15畳。大きな梁を張りめぐらせた造りで左手には庭園を望みます。
1階から階段を上り2階の展示室へ。
年3回展示替えされる「金沢老舗百年展」のコーナーと、金沢に伝わる華やかな婚礼のしきたりを紹介するコーナー、そして工芸菓子の展示コーナーがあります。
建物の裏庭は日本庭園になっているので、お時間に余裕があれば1階から庭に降りて散策するのもいいですね。
基本情報
金沢市老舗記念館
【住所】石川県金沢市長町2-2-45
【電話番号】076-220-2524
【定休日】無休(展示替え期間と年末年始は休館)
【開館時間】9:30~17:00(入館は~16:30)
【駐車場】なし
【料金】入館大人100円、高校生以下無料
老舗和菓子店で落雁手作り体験にチャレンジ
次に訪ねたのは老舗和菓子店『森八』です。
寛永2年(1625)の創業で、加賀藩前田家のお抱え和菓子店として、長年金沢の菓子文化を盛り立ててきました。森八の看板商品ともいえるのが落雁の「長生殿」(ちょうせいでん)で、その落雁の手作り体験ができるというのでチャレンジしました!
森八の落雁は、阿波徳島県産の和三盆、北陸産のもち米などが原料だそう。粉の色は赤と白があり、好みのものを選びます。
この合わせた材料を、まずは板を使って粉のかたまりをほぐしながら揉み込む作業から始めます。そうすることで粉がしっとりし、カタチが作りやすくなるそうです。ただし粉が乾いてはいけないので、手早く行います。
「けっこう力強く押し込むんですね」と聞くと、「そうです、たとえばモミジの型の葉先など、細かい部分にも行き渡るようにするためです」とのこと。
もっと力を込めてー!
型の持ち手をコンコンと叩き上下に重なった型の一方が少し浮いたらそっと外します。
おおっ、固まった落雁が底板に行儀良く並んでいました。
トレーに移したら、粉は2回分あるのでもう1回。
2回目は手慣れた感じで、「カタチや模様がきれいに出てますよ」と褒められ、上機嫌です。
桜や梅、椿、蝶、紅葉など型の種類はさまざまで、眺めているだけでも愛らしくて、食べるのが惜しくなるほどです。
体験の所要時間は約40分でした。
食べる分だけお皿にのせ、余った分はお持ち帰り用の小箱に詰めてもらえます。
落雁はカリッと硬いイメージがあったのですが、作り立てはしっとりやわらかで口の中でスーッととろけて、やさしい甘みが心地よい、生落雁のイメージですね。
かつて加賀藩主も和菓子職人を呼びつけて、作りたての長生殿を味わったとか。
今も昔も、美味しいものに目がないのは同じですね。
菓子の木型美術館で金沢の和菓子文化にふれる
照明を抑えた洗練された美術館内には、江戸から昭和にかけての貴重な木型がおよそ1000点も、ところ狭しとずらりと並べられています。
通路の両側にぎっしりと並ぶアプローチは、まるで菓子の木型のトンネルをくぐるよう。落雁用や金花糖用など、種類も豊富でサイズやデザインも様々です。
「鯛の木型です。これは金花糖(きんかとう)といって、砂糖をぐつぐつ煮詰めて型に流し込んで作るものの木型です。金沢では雛まつりや引き出物など、お祝い事に欠かせないお菓子ですよ」と、お店の方が教えてくれました。
この鯛は一対を向き合わせていますが、金沢ではおめでたいときに飾られ、子孫繁栄の意味も込められているそうです。
加賀藩前田家の家紋、剣梅鉢(けんうめばち)の木型もありました!
この他、鶴や亀、動物、季節の花々、中にはワサビやバナナといったユニークなものもあります。
時代ごとのデザインや日本ならではのモチーフなど珍しい木型を見つけ、想像を働かせて楽しんでみましょう!
基本情報
加賀藩御用菓子司 森八/金沢菓子木型美術館
【住所】石川県金沢市大手町10-15
【電話番号】076-262-6251
【定休日】無休(1月1・2日は休み)
【開館時間】9:00~18:00(落雁手作り体験は10:00~、15:00~)/木型美術館は9:00~17:00
【駐車場】13台
【料金】落雁手作り体験1,650円(2日前までに要予約)/金沢菓子木型美術館 入館料大人200円、小中学生100円
加賀藩前田家は、武士のみならず庶民にも能や狂言、茶の湯などの文化を奨励したため、ほかにもさまざまな伝統工芸が伝えられています。
和の情緒があふれる金沢をぜひ訪ねてみてくださいね。