さいはての現代アート
3年に1度、奥能登・珠洲市を舞台に開催を続けてきたさいはての芸術祭。災害を乗り越えた常設展示作品は10点を数え、珠洲の自然や歴史、伝統文化を表現し続けています。中でもここで紹介する5点は、ふらっと訪ねていつでも誰でも見ることのできる作品です。
N.S.ハーシャ『なぜここにいるのだろう』(2023年より展示)
見附島にほど近い、海に寄り添う小さな公園に展示された愛らしい作品です。 故郷や地域性がなくなってきている現代に、「迷子のキリン」の親子を重ねています。海を見つめる母キリンとお乳を吸うのに赤ちゃんキリン。彼らの首には、「答えを探す」ための望遠鏡などが花輪のように取り付けられています。我々に帰る家はあるのだろうか? もしあるとすれば、それはどこなのだろうか?
トビアス・レーベルガー『Something Else is Possible/なにか他にできる』(2017年より展示)
奥能登国際芸術祭を象徴する作品として初年度から設置されている作品です。道路で断ち切られた線路跡で、色を変えながらうねるような空間が創られています。鑑賞者はその空間の中へと進み、行きついたところから双眼鏡を覗くと、のと鉄道の終点だった旧蛸島駅の先に、作家からのメッセージを見ることができます。
ラグジュアリー・ロジコ[豪華朗機工]『家のささやき』(2023年より展示)
鉢ヶ崎海岸の傍らに設置された作品です。能登の中でもその美しさが際立つ海岸で、瓦を通して、「記憶」、「家」、「人口」、「産業」など、素材と地域問題の関連性をとりあげています。作家は、家というものを記憶を集めるエネルギーの象徴と考え、「集まることは力になる」をコンセ プトに、昔の記憶を掘り起こしていく。この地を離れた人々が、ふたたび戻ってくるようにという願いが込められた作品です。
アレクサンドル・コンスタンチーノフ『珠洲海道五十三次』(2017年より展示)
折戸町の能登洲崎バス停が作品となっています。はざ干しのはざに囲まれ、目の前には小さな漁港が佇んむ中、珠洲の風景の特徴のひとつである屋根つきのバス停が現代アートとして溶け込んでいます。数学者でもある作家は、バス停を垂直平行を基本構造とするアルミニウムのパイプで包みこみ、作品化しています。当初は市内4箇所のバス停が作品化されていましたが、震災によりいまはこのバス停だけが作品としてその姿を留めています。
奥村浩之『風と波』(2023年より展示)
鰐崎海岸に設置された奥村浩之氏の石彫作品です。白く輝く石素材の持つテクスチャー、うねりが表現されたカタチが、鰐崎海岸の目の前に広がる海の青さに囲まれて存在感を放っています。時間や日によって異なる色味、場所によって異なる触感が、時には優しく、時には荒々しい、珠洲の波や風を感じさせてくれます。 本当に美しい鰐崎海岸の自然風景に、見事に色を添えて記憶に残してくれるのが『風と波』です。